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It's a sound only ...
『とある機族の報告書』
文章:元、挿し絵:daic
地球―日本時間 7:40
Rin Asakura>>
「おはよう、鈴ちゃん」
「おはようございます、和菓子屋のおばあちゃん!」
「どうしたんだい、こんな朝早くから」
「特秘行動を兼ねたお散歩です」
「おやまぁ、大変だねぇ」
「お仕事ですもん、ぜんぜん平気ですよー」
「そうかいそうかい。そうだ、できたてのお菓子とお茶でも飲んでいかないかい?」
「わーい、ありがとうございますぅ!」
Ran Tendou>>
ガシャ
「さて、行って来るよ、麗ちゃん」
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
「うん。なるべく壊れないように頑張るよ」
「…今日は気弱ね、どうしたの?」
「う、うん。相手は筋金入りの放浪機集団だからね」
「でも火星と金星の常駐機達との合同任務でしょう? あの人たちは古参の先輩達なんだから安心して良いと思うけど?」
「うーん、だから、かな。どこかに甘えができちゃうんだ」
「蘭ちゃんは案外まじめだね」
「案外、は余計よっ!」
「そうそう、その意気で頑張ってね」
「…うん、ありがとね、麗ちゃん」
地球―日本時間 11:30
Rin Askura>>
「こんにちわー、四季さん」
「あら、鈴ちゃん。こんにちわ」
「ピートさんもこんにちわー」
「なー」
「ところで鈴ちゃん、背中のものすごい量の荷物は…どうしたの?」
「えへへ。これはですね、和菓子屋のおばあちゃんから時台屋の四季さんへって、預かってきたんです」
ドサッ
「なー」
「なんでも、ふっきりがついたから処分したいんだそうですよ」
「そう。やっぱりSFものが多いわね、息子さんが好きだったわ」
「四季さん、おばあちゃんの息子さんを知ってるんですか?」
「ええ。ウチのお得意さんだったから」
「へー。おばあちゃんの息子さんは何をしてらっしゃる方なんですか?」
「……それよりも絶版モノが多いから、八木さんが喜びそうだわ」
「八木さん?」
「あ、鈴ちゃんは会った事なかったわね。成恵ちゃんのお友達で、ウチのお得意様よ」
「へぇ、今度紹介してくださいね」
「やめた方がいいと思う…」
「うにゃ」
「えー、どうしてですかぁ??」
「鈴ちゃん、ロボットさんだってバレちゃったら大変でしょう? 八木さんは結構鋭いから」
「き、気をつけますっ」
「ところで鈴ちゃん、陽電子転換炉はそろそろからっぽじゃない?」
「??」
ぐー
「あ、はい!」
「お昼、一緒に食べましょう。さ、奥に上がって」
「はいっ、ありがとうございます!!」
Ran Tendou>>
「よぅ、うかない顔してるな」
「ん、うん。今回のミッションは手こづりそうだから」
「白鳥座逗留の部隊を全滅させたそうだからな、奴ら。まぁ、あそこにいたのは出撃が初めてだったど新人ばっかりだったって話だが」
「それを聞いて、ちょっとね」
「大丈夫だ、蘭。お前はもぅ俺達並みの技術と認識力を持ってるよ」
「それって、私がおばさんになってるってこと?」
「ははは、そうとも言うな」
ぽす
「エネルギーパック?」
「自信を持て、蘭。しっかり腹ごなししておけよ。食べれば自信も出るさ」
「あ、もぅこんな時間だったんだ。奴らとの接触までそろそろだね」
ちゅー
「ああ。今回のミッションで最後となるとちょっと寂しくはなるな」
「? 最後?」
ちゅー
「ん、聞いてなかったか。俺は今日のこのミッションで転属だよ」
「き、聞いてないよっ!」
「すまんすまん。惑星・独逸で航空監視に回ったんだ」
「…閑職?」
「まぁな。そろそろ俺も落ち着いてみようと思ってね。後方で気の合った奴と悠々自適の生活ってのも、悪くない」
「あ! もしかしてあの人と?」
「ああ、そうだ」
『敵機確認、戦闘機は各自戦闘配置につけ!』
「さて、行くか」
「おー!」
地球―日本時間 13:20
Rin Asakura>>
「オデットさーん!」
「クワッ、クワッ!」
「元気だった? ちゃんとお友達とも仲良くしてる?」
「クワ!」
「良かったー」
Ran Tendou>>
―――宇宙空間での戦闘は真空状態であるため、音声は収録できない―――
地球―日本時間 15:30
Rin Asakura>>
「鈴ちゃん、お買い物?」
「あ、成恵さん! それに和人さんも」
「すごい荷物だね、鈴ちゃん。中身はなんだい?」
ごそごそ
「サハラ砂漠のプラモデル??」
「世界遺産シリーズって? どこに売ってるのよ、こんなの?」
「アニメマイトです、色々揃ってますよね、あそこは」
「そうそう! 四号ちゃんシリーズの入荷はあそこが一番早いし」
「和ちゃん……」
Ran Tendou>>
「しくじったぜ、後は頼む、蘭」
「う、嘘でしょう! アンタほどの奴がっ!?」
「すまねぇな……」
ブッ
「そんな、そんな!!」
ゴッ!
「グッ、右舷に損傷…軽微!」
ジジジッ
『通信に強制介入されました』
「よそ見できるほどの余裕かい、お嬢ちゃん」
「貴様ぁぁ!! 壊してやるっ!!」
地球―日本時間 18:25
Rin Asakura>>
「ごちそうさまでしたー、おいしかったぁ」
「おかわりは良いの、鈴ちゃん?」
「もぅお腹いっぱいですよー」
「成恵、チャンネルを8に変えて」
「香奈花様、お食事中にテレビはお行儀悪いっていつもいつも言っているでしょう」
「いいじゃん、今日ぐらいさぁ。ねー、鈴ちゃん?」
「あ、あう、はわわー」
「バチスカーフ! 鈴ちゃんにプレッシャーかけない!!」
「…まったく」
Ran Tendou>>
「……う機! 天堂機!」
「蘭ちゃん!!」
「?!?!」
「よかったぁ、蘭ちゃん!」
「?? 麗ちゃん? ちょ、何何? 抱きつかないでよ、苦しいって!!」
「良かった、良かった……このまま放浪機になっちゃうかと思ったよ」
「放浪機、私が?」
「周りを良く見てみなさい」
「アンタは金星の……周り? え?!」
「……蘭ちゃん、暴走してたんだよ」
「戦闘機の残骸だらけ……そ、そうだ、ミッションは?!」
「完了したよ、天堂機。君の暴走により指名手配の放浪機達はこの通りだ」
「……この残骸が、全部?!」
「危うく友軍にも被害が出るところだったぞ。同士打ちほど馬鹿げたものはないからな」
「こちらの被害は?」
「大破3、小破5。あとは無事だ」
「そっか……私、暴走してたんだ」
「仲間がやられたのを見てショックを受けたのだろう。精神的にはまだまだ未熟だな」
「ちょっと、貴方っ!」
「いや、良いの、麗ちゃん。その通りよ」
「蘭ちゃん……」
地球―日本時間 20:30
Rin Asakura & Ran Tendou>>
「ただいま戻りました」
「たっだいまー、あ、蘭ちゃんに麗ちゃん。おかえりなさーい」
「おかえり、鈴ちゃん」
「お疲れ様」
「3人とも、今日も任務、ご苦労だった。あとでいつものようにちゃんと報告書を入れるように」
「はーい」
「はっ」
「了解しました」
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ほうこくしょ
あさくら りん
きょうは おかしやさんのおばあちゃんをおてつだいしました
じだいやの しきさんへの おとどけものでした
しきさんは おばあちゃんからのにもつをみて なぜかちょっと かなしそうなかおをしていました
そのあと おでっとさんにあいにいきました
げんきでした
それから なるえさんにおよばれして ばんごはんをみんなと いっしょにたべました
みんなとたべるごはんは とってもおいしかったです
監察官 テイルメッサー殿
地球方面護衛艦BUSS800所属
戦術型戦闘機 天堂 蘭
日報
本日は指令803号に基づき、火星及び金星方面所属護衛艦達と共同作戦を実施。
白鳥座より地球を目指す放浪機集団との戦闘。
詳細は下記の通り。
記
放浪機集団:全22機 (内 捕獲4、破壊16、逃走2)
自軍被害:大破3、小破5
逃走機も生じたが、地球への進入を食い止めることには成功する
捕獲機は火星施設へ連行処置。
逃走機については別途、追跡を続行する。
付記
今回の指令施行中、友軍機の大破を目前にして小官の思考速度が一時的に45%低下。
その後、感情回路の異常が生じて小官は暴走。敵機に対し、執拗なまでの破壊を行う。
再発防止の為、戦闘時における感情回路の一時的遮断処置を要望する。
以上
「うむ」
モニターに映る2つの報告を見つめながら、黒衣の男・テイルメッサーは手にした缶コーヒーを口へと運ぶ。
「これからあるべき機族の姿……どちらかと思うかね、麗君」
独り言とも思えるその呟きに、闇の中から一人の少女が現れる。
「それは私の希望を述べろということでしょうか、監察官?」
外見に似合わない大人びいた口調で彼女―― 音無 麗は問う。
それにテイルメッサーは応えない。
「我々機族は人の応じる姿をとります。すなわち」
「君達のあるべき姿を決定するのは我々人間次第、ということか」
「そういうことです」
「ところで麗君」
「はい?」
「缶コーヒー、飲むかね?」
「いただきます」
了
共同企画
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