◆エンジェリックレイヤー・ショートストーリー◆

それは小さなイベントであった。
つぶれかけで再建に必死の、四腰デパートが企画した大会。
そこに、たまたま鈴原みさきの姿があった。
隣に並ぶのは珠代,その後ろには荷物持ちとして問答無用で動員された虎太郎の姿もある。
「へぇ、優勝者には地下食堂街の一万円分金券かぁ」
両手に荷物を下げた虎太郎は、ポスターを眺めて呟いた。
イベント――それはエンジェルによるトーナメント式の勝ち抜きバトルであった。
「さぁ、みさきち! 頑張ってね♪」
「「はぃ??」」
珠代の唐突な言葉に、思わず声を合わせるみさきと虎太郎。
「ちゃんとみさきちの名前で登録してきたから。
今日は地下のパフェ、食べ放題だー!」
一人喜ぶ珠代に、困った顔の二人。
この時、みさきは知らなかった。
エンジェルが、必ずしも一つの型に囚われなくても良いことを………



ニュータイプ

文章:元、挿し絵:daic






「勝者、鈴原みさき!」
領域の中で立つエンジェル『ひかる』に軍配を上げるのは、四腰デパートの中間管理職だろうか?くたびれたおじさんだった。
しかしそのナレーションの内容に、観客から拍手と歓声が起こっていた。
「やっぱり、みさきちは強いなぁ」
ひかるを手にして駆けてくる操縦者に彼は微笑む。
「虎太郎ちゃんが応援してくれたからだよ♪」
「ほほぅ、熱いねぇ、お二人とも」
ジト眼の珠代に慌てる二人。
そんな様子に珠代は微笑み、勝っておいたのだろう、缶ジュースを手渡した。
「あと一息よ、みさきち」
「うん、次が決勝戦やもんな」
ジュースを一口,みさきは力強く頷いた。
と、場内放送が流れる。
『これより決勝戦を始めます。
鈴原さんと安室さんは準備をお願いいたします』 「ほな、行ってくるね!」
「「がんばれ!」」
そして虎太郎と珠代は、ヒカルを手にして駆け出したみさきを手を振って見送ったのだった。



会場には近年、見ないほどの人込みに溢れかえっていた。
それだけで、このイベントは成功だったとも見える。
人込みの中心には円形の、まるでお立ち台のような舞台があった。
そしてそれを間に挟んで、少年と少女が向かい合う。
『それでは決勝戦を始めます!』
ナレーターの言葉に沸く会場。
先程までは元気のなかったナレーターは熱気に当てられたのか、やや声が弾んでいた。
『まずは軽い身のこなしを武器にここまで勝ち進んできた、鈴原みさきさん! エンジェルはヒカルだ!!』
言葉と同時、ショートカットの少女を模した人形が円形の舞台――戦闘領域――に降り立った。
目立った武装は腕と足に手甲と膝甲。
スピード重視の機体であることが見て取れる。
『対するは、過剰なほどの武装を武器に勝ち進んできた、ヒカルとは全く別のタイプのエンジェル。安室霊くんが操る、その名も……』
ズシャ!
重たい音を立てて、そのエンジェルは舞台に降り立った。
日の光に照り返す白い装甲、角張った四肢、表情のない顔――そう、それは……
『ガンダムだぁ!』
「「そんなんアリかーーー!!!」」
思わず叫んでしまう、観客席の珠代と虎太郎であった。
一方、みさきは、
「なんかカッコイイね」
良く分かっていなかった。
『それでは、バトル・スタート!!』
開始の合図とともに両者は動いた!!
ヒカルは接近を。
ガンダムは右手に握ったビームライフルを。
撃った。
ビュン!
「のわわっ!」
慌てて回避行動をとるヒカル,しかしその先へ、先へとビームを打ち込んでくるガンダム。
それを紙一重でヒカルはかわして行く。
『これはすごいぞ! 今まで相手を初発の一撃で葬り去ってきたビームライフルが当たらないっ』
「「それはナシだろーーー!!」」
珠代と虎太郎は叫び、
「強いっ!」
唸るみさき。
不条理を疑わない良い子である。
と、ガンダムの視界からヒカルの姿が消えた。
「何っ!」
安室はうなり、そして!
「上っ!」
ライフルを振り上げるが間に合わず!
ヒカルの踵落としがガンダムの後ろ頭に炸裂,がしゃりと重たい音を立ててガンダムは倒れた。
「「「うぉぉぉぉ!!!」」」ヒカルの鮮やかな技に、熱気に沸く会場。
安室はキッと相手の操縦者・みさきを睨み付けた。
「殴ったね、父さんにも殴られたことがないのに!!」
叫び、ガンダムを立たせようとするが……
『おおっとガンダム! 自らの重量に耐えられず、立つことができない!!』
「動け動け動け動け動けぇぇーー!!」
倒れたままあがくガンダムに対して、ヒカルの無慈悲な蹴りが止めを刺したのだった。

ヒカル

『優勝者・鈴原みさきさん! おめでとうございます!!』
みさきはヒカルを片手に、商品を受け取る。
その隣には準優勝者である安室 霊。
彼は独白の様に彼女に小声で問うた。
「どうして僕は…負けたんだ?」
みさきは、こちらもまた周りには気付かれないような小声で彼に答える。
ニタリとした笑みを一瞬浮かべて。
「坊やだからさ」
次の日、虎太郎が無理矢理食べさせられたパフェ20杯のせいで腹を壊して休んだことは全くの余談である。



終わり






共同企画

えれくとら ふらっと☆すてーしょん






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