◆まもって守護月天・ショートストーリー◆


「えっと、これで最後かな」
「ごくろーごくろー」
那奈しゃんはそう言って、出雲しゃんから最後の箱を受け取りました。
わたし、離珠は那奈しゃんの肩の上からそれを覗きこみます。
今までの物よりもずっと古い古い木の箱でした。
「しかし引っ張り出してくるのに苦労しましたよ,蔵の奥底の方に眠ってましたからね」
「シャオの喜ぶ顔を見れるんだから、それくらい我慢しとけ」
「……それもそうですね」
苦笑いをして出雲しゃんは荷物を運んできたバンの運転席に戻ります。いつもごくろー様です。
「茶くらいしばいて行ったらどう?」
「父に蔵の掃除を言われてしまいましてね。また明日にでも寄らせてもらいますよ」
エンジンがかかりました。
「そうそう、その人形ですけど、気を付けてくださいね」
「え?」
どういうことでしか? 出雲しゃん??
「私も詳しくは知らないのですが、えらく古い魔除けのお札が貼ってあるのですよ」
木箱には茶色くなった紙が、ふたを塞ぐ様にして貼りついています。これでしょうか??
「なんだい,動くお雛様とでも言いたいのか?」
「さぁ,でもウチの蔵にあるくらいですから、そうかもしれませんよ。それじゃ」
さよーならー
離珠は腕をぶんぶか振りました,出雲しゃんは優しく笑って手を振り返してくれます。
バンはゆっくりと七梨家から遠ざかって行きました。
「さてと、中の方は準備できてるかな?」
那奈しゃんは離珠にそう問いかけながら家の中に戻ります。
もういくつ寝ると、雛祭り。
そう、今日はその準備なのです。


『離珠とお雛様』

文章:元、挿し絵:daic




お家の一階にある和室には、太助しゃまとキリュウしゃんが準備をしていました。
「太助,どんな感じだ?」
「まずまずかな、姉さん」
和室には、どどーんと赤い敷布に覆われたおっきな台が一つ。
雛飾りというそうです。階段状のひな壇は5段,昔の日本人の服装をした人形が並べられています。
なんでも3月3日は女の子のお祭りなのだそうですよー。
「主殿,一番上には何を飾るのだ?」
「お内裏様とお雛様だよ、今、姉さんが持ってきたのがお雛様で、こっちがお内裏様」
太助しゃまはそう言って、箱から出されたばかりの男の人の人形を指差して言います。
ちょうど、離珠と同じくらいの大きさですね。
「ほれ、こっちがお雛様だ」
「古い箱だな」
キリュウしゃんは那奈しゃんから箱を受け取って、ぱこっと開けました。
中には赤い着物をたくさん着た綺麗な女の人が入っています。
「へぇ、綺麗ねぇ」
「……ふむ」
「どれどれ?」
太助しゃまも後ろから覗きこんできます。ほんとに生きているみたいに綺麗です。
さぁ、早く飾りつけしまいましょう!
「ん? はいはい、分かったよ、離珠」
さすが太助しゃま,離珠が耳を引っ張っただけで分かってくれました。
一番上の段にお内裏様とお雛様を置いて……完成です!
丁度その時でした。
「ただいまー」
玄関からシャオしゃまの声が聞こえてきました。
ルーアンしゃんとお買い物に行ってたんでし。
「準備できたよ、シャオ」
「わぁ、素敵ですね」
和室を覗きこんだシャオしゃまは嬉しそうに言いました,離珠も嬉しくなります。
「みーちゃんも大変ねぇ,まぁ、女の子のお祭りだし、これ位してくれて当然だけどね」
「ルーアン先生は『子』じゃないでしょ?」
「うぐっ!」
那奈しゃん、ないすツッコミでし!
「お茶でも煎れましょう,あら、その出雲さんはどちらに?」
「帰った」那奈しゃん、簡単過ぎます。
「お煎餅、たくさん買ってきたのに……余っちゃいますねぇ」
シャオしゃまは困った顔で言いました。そうですねー。
「ルーアンがその分、食べちゃうだろ」
「たー様ったら、ひっどーい! 人を大食いみたいに言って!!」
大食いじゃないですか。
太助しゃまの肩から降りた離珠は、最後に綺麗なお雛様を見てから、リビングルームに移ろうとするみんなの後ろを追い……

離珠
あれ?
今、
お雛様が動きませんでしたか?
離珠はじっと五段上に座っているお雛様を見ます。
今、肩が動いたのです,そう見えたんです。
――目の錯覚でしょうか?
カタリ
え?
やっぱり動きました,みんな、見てくだしゃい! お雛様がぁぁ!!
お雛様は立ちあがり、離珠を睨んでいます!!
みんな……ああっ、もぅいなくなってるぅぅぅ!!!
十二単のお雛様は離珠に向ってニタリと微笑むとそこからいきなり大ジャンプ!
ヒィィ、動いたぁぁぁ!!
ズシャアア!
そんな効果音を立てて離珠の前に立ち塞がります。
これって……大ピンチでしゅか?!?!
お雛様はシャドウボクシングしてます,恐いでし。
ギラン
と、目が光りました,私はお雛様の大上段の蹴りを慌てて伏せる事でかわします!
ジャブジャブジャブ!
ひぃぃぃぃ!!
も、猛攻です,力石 徹のようです!!
このまま、離珠はこのまま負けてしまうのでしょうか?!
……そうです、逃げていてはいけません!
シャオ様も言ってました,太助しゃまを離珠達が守るのだとっ!
離珠は深呼吸をしてお雛様を睨みます,逃げてばかりはいられません。
お雛様が駆けて来ました,やられる前にやらねばっ!
離珠は突撃しますっ!
ぼき


きゃぅ!
思いきりぶつかり合って、そんな音が聞こえました。
離珠は跳ね飛ばされてその場に尻餅です。
恐る恐る、目を開けると……
ひぃぃぃぃ!!
お雛様の、お雛様の首が、首が取れましたーーーーーー!
そのまま首の取れたお雛様はぱったりと倒れます。
離珠が、離珠が勝ったんでしね!!
「お神酒を入れておきませんと」
「ふむ、そうか」
足音と話し声が聞こえてきました、シャオしゃまとキリュウしゃんです。
離珠はこの時、我に返りました。
倒れたお雛様を見ます。
……このままじゃ、離珠がお雛様を壊した悪者でしーーーーー。
トットットッ
二人の足音が近づいてきます。
はぅ! どうしよう……どうし……
そうでしっ!
離珠はお雛様の着ているものを着込みました,こぅなったら離珠がお雛様に化けてこの場をやり過ごすしかありません!!
「お神酒お神酒っ♪」
シャオしゃまがやってきました,気付きませんように……
あ、キリュウしゃんが離珠を見ています。
ジッと見ています。ジッと……
い、息が当たるくらい近くで?!
「どうしました、キリュウさん?」
「いや、何でもない」
離珠の目と鼻の先まで近づいて見ていたキリュウしゃんはシャオしゃまに応えます。
「ちょっと見てから戻る」
「? そうですか?」
そのままシャオしゃまは皆の所へと戻って行きました。
それを見届けて、キリュウしゃんは離珠をひょいと摘んで、手の上に置きます。
「離珠、何をやっている?」
びくっ
いえ、離珠じゃありません。離珠はお雛様です。
「何やってる?」
はぅー、バレてるぅぅぅ!!
じ、じつは……
パタパタ
離珠は身振り手振りでお雛様が襲い掛かってきた事を伝えます。
キリュウしゃんはふむふむと頷きました。
「ふむ、困ったな。どうやって直すか?」
首の取れたお雛様を目の前にして、離珠達二人はううむと唸ります。
そうだ、出雲さんなら直せるかも!
「そうなのか?」
はい、お部屋にお人形がたくさん置いてあるのを見たことあります。
前に軒猿しゃんと一緒にお饅頭を食べに行った時、見たんでし。
よくTVでやってるアニメの人達の人形でした。
「……なんの人形なのだか」
キリュウしゃんは、なんだか呆れた顔で呟くと、腰に差した短天扇で離珠を扇ぎました。
「力を貸してやろう」
り、離珠が大きくなっちゃいました!
離珠は周りをウロウロ見まわします。やっぱり大きくなると見え方が違いますねー。
壁に立てかけてある姿見には、十二単の離珠が映っていました。
「……走れ、メロス」
ボソリとキリュウしゃん。
走って行ってこいというのですね,さすが試練の精霊でし。
でも、何も離珠にも試練を下さなくても……
ともあれ、離珠は壊れたお雛様を懐に入れて家を飛び出したのです。
目指すは出雲しゃんのお家でし!!



お、重いでし。
それに何故か、人の視線が痛いです。
昔の人はよくこんな重たい着物を着たものです。おまけにとっても目立つのでし。
途中で知らない人に呼びとめられたりしましたが、ようやく出雲しゃんのいる神社の境内まで着きました。
さて、出雲しゃんはどこに……いた!
蔵の前でし。
「ふぅ、重い……」
そんな独り言を言って、若いのに腰をぽんぽん叩いている出雲しゃんはおっさんに見えます。
ぽてぽてぽて
離珠は思わず走ります。
「ん? はぃ?!?!」
驚きに目を白黒させている出雲しゃんの胸に飛び込みました。
「ダ、ダレデスカ?!」
何故か言葉がカタコトになっている出雲しゃんに、懐から壊れた人形を出して見せました。
これを!
「これは……あ、君は離珠さんですか。で、一体これはどういうことです?」
出雲しゃんは離珠の格好を見て首を捻ります。
うーん、説明するでしか。
離珠は頑張って身振り手振りで説明します。
パタパタパタ
「え、動いて襲ってきた?」
パタパタ
「で、返り討ちにしたらこうなったと」
パタパタ
「シャオさんが楽しみにしている雛祭りだから、直さないと大変?」
こくこく
「そーいうことなら任せたまえ。シャオさんの為ならばっ!」
さすが出雲しゃんでし!
「……ところでどうして私に?」
そりゃ、前に。
パタパタパタ
「……人形がたくさんあるから? そ、それはシャオさんには、というか誰にも内緒にね」
??
「どうしても!」
そうでしかー、なんででしょう??
何でかは分からなかったけれど、出雲しゃんはあっという間に直してくれて、とてもすごいなーと離珠は思ったのでした。



今日は何度目でしょう,出雲しゃんの車に乗るのは。
でも今は離珠はおっきいので、助手席なのですよー。
「じゃ、シャオさんによろしくね」
家の前まで出雲しゃんは送ってくれました。
ありがとうございます、出雲しゃん!
お礼を言いたいけれど、離珠は喋れないので言えません。
でも……そうだ、前にTVでこういうお礼の仕方がやってました。
ちゅ
「へ?」
出雲しゃんは驚いた顔をします。
ありがとうございました。
ペコリ、離珠はお辞儀を一つ。お家に戻ります。
そんな離珠に、出雲しゃんはさっきと同じように手を振って送ってくれました。
「ずっと大きいままでいてくれるのなら……いや、イカンイカン!!」
なんかそんな独り言を言ってましたけど。



その頃―――
Round 2 Fight!
「やるな、貴様!!」
虎賁がお内裏様と激闘を繰り広げていたりするのだった。



おわり





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